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歌人・藤井常世

▼経歴

藤井 常世(ふじい とこよ、女性、1940年12月3日 - 2013年10月30日)は、歌人

折口信夫門下の歴史学者・藤井貞文の娘として東京都に生まれる。

弟は藤井貞和。「常世」は本名で、折口が名付け親。

國學院大學文学部文学科卒業。香川進の歌誌『地中海』を経て、1972年岡野弘彦の歌誌『人』創刊に参加。

1993年『笛の会』を結成、代表となる。現代歌人協会会員。2002年「NHK歌壇」選者。2013年10月30日、急性心不全のため死去。72歳没。

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▼作品

気管病み易かりし少女期卵抱く鶏(とり)のごとき眼をしてうづくまりゐき  『氷の貌』

人死にし記憶につねにつながりゆく冬の朝ひつそりとわが誕生日  『紫苑幻野』

よぢれつつのぼる心のかたちかと見るまに消えし一羽の雲雀  『紫苑幻野』

いちにちを降りゐし雨の夜に入りても止まずやみがたく人思ふなり

 咲き急ぎ散りいそぐ花を見てあればあやまちすらもひたすらなりし  『草のたてがみ』

身を刺すは若葉のしづく木菟のこゑいま抱かれなばにほひたつべし

はつかなる笑みを湛ふる小面のうちら貼りつく氷(ひ)の貌われは  『氷の貌』

葛原のどつと乱るる裡にありて人に見えぬぞよきといふこゑ

歌詠みて身は痩せゆくとゆめ思ふな 野に咲く吾亦紅吾亦紅  『繭の歳月』

いかづちは地にやや近き空にありて大音声にこの世を叱る

歌ひつくしあひつくす世にあらざればとほき風音ききて眠らむ  『画布』

つひの息いかにありしと嘆く夜を重ねかさねて九十九夜か  『九十九夜』

ひとすぢの風あればわれとともにそよぐ母が遺しし帯の秋草  『文月』

誰が振りし笞かひゆんと音などは聞こえねど闇の空に疵見ゆ  『夜半楽』

夜渡るはあかき月かも流るるは夜半楽こよひ楽しめとこそ

いのちのきはに父も恋ひしかこの海の音をつたへてわが鼓動鳴る  『鳥打帽子』

うち靡く仙石原の穂すすきに見え隠れ父の鳥打帽子

 

▼著書

人気ある著書として短歌入門書『短歌の〈文法〉 歌あそび言葉あそびのススメ NHK短歌』がある。歌集はやはり手に入りにくいが、作品を読むだけならば『藤井常世歌集 現代歌人文庫』2012年 が便利。