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日文ログ -日本文化専門ブログ-

短歌・和歌・俳句・日本文学・茶道・能・弓道・空手など。

歌人・醍醐志万子

▼略歴

 

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▼作品

清潔に身を処し来り菜の花のかがよふ野べにわが立ちつくす  「短歌山脈」

過ぎし日の嘆きに触るることなくて夫のかたへにわれは安らに

二〇代の大方を軍に従ひし夫病めば何に向けむ怒りぞこれは   『花文』

別れたる夫より長く生きむこと当然としてわが月日あり                  

臨終に喚ばるるほどの妻ならず野の草花をわれはつみつつ

生業をつぐべくわれのをんなにて火のなき窯に身をもたせゐつ         

ジェット機のいまだ上空を飛ばざれば人も鶏も静かにあるく               

燃えのぼる火に汗たりてわがゐたり動揺の日は過ぎて短く

蠟の火に蚊を焼きをりて昨日よりの空想にむごき結末きたる

泣くほどのこともなかりし一日のをはりを何の嗚咽こみあぐ   『木草』

傘のなか塩と黄薔薇をかかへたり塩はしづかにびんに充ちゐる

窯のほめきに背をおし当てて九歳まで一人子なりし欠落つづく  『花信』

唐の墨磨りゐる机に雪どけの雫が影を落としつづける

人ごとにもの言ふ声をひそめつつ父のなき子ともはやなり果つ

人のなきあとを生くるは仇討のごとくに向ふ机上のものに   『霜天の星』

何事かわれの思ひに入れるあり死にたる人はまこと死にしか

すぐれたる身丈にませばかなしみの一生のうちに尽くるなかりし

かなしみは胸処にあると思ひたるのちの日なみだ喉をのぼる

焼跡のけぶる大阪駅前に千代紙買へるを誰か信じよ

還暦の三浦環の歌ひたる「冬の旅」よりいくさ激しき

わが母を犬を問ひくる手紙ありこのもの二つわれのうからぞ   『玄圃梨』

たたかひに国敗れたる冬に見しぎしぎしの葉の猛きくれなゐ

一九九一年航空写真に家の裏は田の面ひろごる荒土のいろ  『伐折羅』

これがこの丹波の寒さ正月の客の去にたる庭に来てゐる

長く生きてあるが仕合せとははそはの母いひければ涙ぐまるる

そのうちにいつか行きたき町のあり焦がるるほどにあらぬたのしさ

千両に万両に実の朱き庭にひとり入りゆきひとり出できつ

灯を消すなと言ひし母のごと小さき灯の下に眠りぬ夜の白むまで  『田庭』                 

母を看取りてありし二年を一生の満ち足りし日々と言へば笑ふか             

死のきはの母につづきて犬の死を思ひてかなし目覚めゆきつつ

戦前も戦中戦後もわがうちを通り過ぎ行く一つくくりに  「短歌現代」

八十年たつた八十年住みし家に別れんとしてお辞儀一つす   作歌ノート   

机の下に椅子を納めてふり返るそこには一人のわれさへ居らず   「鹽」

挺身隊といふ名恥ずかしその上に女子挺身隊となれば尚更

われの知る山にはあらずのつたりと木々を茂らす房総の山

 

▼著書

作品を多く読むには塩と薔薇が便利。第一歌集『花文』~第四歌集『霜天の星』からの自選500首を収録している。