歌人・永井陽子
▼略歴
▼作品
ゆふぐれに櫛をひろへりゆふぐれの櫛はわたしにひろはれしのみ 『なよたけ拾遺』
べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊 『樟の木のうた』
あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ 『ふしぎな楽器』
ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり 『モーツァルトの電話帳』
鹿たちも若草の上にねむるゆゑおやすみ阿修羅おやすみ迦楼羅 『てまり唄』
雨あがりの木々の緑は永遠の陽の使者として我に降り来る
前髪の奥深く棲む少年にほほえむごとくイチョウの刺客降る
意識のない時の経過よ石けんの泡の位置より危うき孤立
さそり座が好き 愛されるポーズして呪詛のごと君に言葉を返す
「でくのぼう」人は私をそう呼んだ 詩語をなくした鵯一羽
手の中で透明になってしまうまで 秋 弄ぶ君のイニシャル
母がめそめそ泣く陽だまりやこんな日は手毬つきつつ遊べたらよし
人間はぼろぼろになり死にゆくと夜ふけておもふ母のかたへに
こころねのわろきうさぎは母うさぎの戒名などを考へてをり
流れたる歳月にしていつまでも美しからずわが言葉さへ (遺稿)
▼著書
人気ある 歌人のため初版歌集はなかなか手に入らないが作品を読むだけならば『永井陽子全歌集』 2005/2 が便利。エッセイ集『モモタロウは泣かない』も名著。